名スポットは迂回した先に。

【忘れられないふるさとの味#25】平田屋のぢゃんぼ餅(鹿児島県鹿児島市 / 仙巌園駅)

郷土料理やご当地グルメには、土地に根ざした物語と“ふるさとの味”が詰まっています。

「忘れられないふるさとの味」シリーズでは、各地の発祥店や地元の名店を訪ね、懐かしさと旅情に包まれる料理を紹介します。

平田屋のぢゃんぼ餅

鹿児島市は、西郷隆盛ゆかりの史跡をはじめ、雄大な桜島、水族館など見どころ満載の街。繁華街の「天文館」では、名物「白熊」や黒豚料理、さつま揚げなどが楽しめ、時間はいくらあっても足りない。通好みの旅人におすすめなのは、島津家の大名庭園「仙巌園」周辺。錦江湾を一望する絶景と幕末の遺産が隣合うこのエリアでは、鹿児島という街を歴史と自然の両面から一段深く知るひとときになるはずだ。

ぢゃんぼ餅

長きにわたり愛され続ける「ぢゃんぼ餅」 Photo by よだ なお

鹿児島に古くから伝わる「ぢゃんぼ餅」。香ばしく炙った柔らかいお餅に、甘い醤油ダレがとろりと絡む、昔ながらの郷土菓子として知られている。ジャンボという名前だが、実際は一口大。武士が腰に刺す二本の刀に倣って2本の竹串を刺したことから「両棒餅(りょうぼうもち)」と名付けられ、それがなまって「ぢゃんぼ餅」となったと言われている。

平田屋

初めてきた気がしない、懐かしさのある店構え Photo by よだ なお

名勝「仙巌園」へ行くなら電車がいい。駅を降りた瞬間、目の前に広がる錦江湾の青さに息をのむからだ。その余韻を抱き、左手からの海風を感じながら一本道を歩く。

この辺りに来たら名物の「ぢゃんぼ餅」は欠かせない。海沿いには看板の文字もかすれた味わい深い店が並び、伝統の味を守り続けている。今回は約145年の歴史を持つ老舗「平田屋」の暖簾をくぐった。

いつまでもこの雰囲気でいてほしいお座敷席 Photo by よだ なお

靴を脱いであがった座敷で足を伸ばしてほっと一息。初めて来たのにこんなに寛ぐのは、おばあちゃんの家のようで懐かしいこの空間だけでなく…

店内からは錦江湾と桜島のダイナミックビュー Photo by よだ なお

窓から見える、ガードレール越しの錦江湾と桜島の存在が大きい。雄大な景色を見ると、日常の小さなクヨクヨなんて吹き飛んでしまう。たまに通り過ぎる車の走行音が波の音に似ているのも心地いい。非日常を味わうと、たまにこんな開放感が駆け抜ける。これも旅の醍醐味の一つだ。

ハーフサイズはぢゃんぼ餅5本入り Photo by よだ なお

焼き加減が絶妙な「ぢゃんぼ餅」は、薄い竹串でしっかり支えられ、タレがとろりと垂れるごとに食欲がかき立てられる。タレをこぼさないよう口へ運ぶ。香ばしい焦げ目はパリッと香ばしく、焼きたてホワホワのお餅がするりと伸びた。みたらしに似た琥珀色のタレは、醤油と砂糖だけではない奥深い旨みがある。

2本刺さる棒が名前の由来 Photo by よだ なお

添えられた鹿児島伝統の「山川漬」も絶品で、強めの塩気が最高の箸休めになる。甘いお餅としょっぱいお漬物。甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい…の無限ループという、世界一美味しい呪いから逃れる術はなさそうだ。

ふと寂しさが込み上げた。この味に会うにはまた遠く鹿児島まで来なければならない。遠距離恋愛と一緒だ。好きだけど頻繁には会えない、そんな甘くてしょっぱい気持ちは、どこか両棒餅と山川漬無限ループと似ている。

施設詳細

店名 ぢゃんぼ餅 平田屋
住所 鹿児島県鹿児島市吉野町9673
アクセス JR「仙巌園駅」下車 徒歩約6分
JR「鹿児島中央駅」から車で約30分
営業時間 9:30~17:00(Lo 16:30)
木曜定休
駐車場 駐車場あり
備考 公式WEBサイト
公式Instagram

案内人

よだ なお

「郷土料理(ふるさとごはん)コーディネーター」として、いつものごはんやおやつに日本各地の郷土料理を作って暮らしています。旅という名の、郷土料理&ご当地グルメ調査に出かけるのがライフワーク。調査と試作を経た郷土料理のレシピを、エッセイとともにInstagramで発信中です。本を出すのが夢。

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