名スポットは迂回した先に。

【階段MAP】足で感じる「風景を切り替え、境界となり、または周囲を引き込む装置」

普段何気なく利用している「階段

建築を専攻していた学生時代に階段の魅力にとり憑かれ、卒業後も建築設計の仕事に携わるさんすけさんに、美しい階段スポットを、その魅力や楽しみ方とともに紹介してもらった。

さんすけさんは、「階段は、高い位置に移動するための装置であると同時に、風景を切り替えるものであり、境界をつくりだすもの、座れる休憩場所になることもある。また、階段にその土地の生活が滲み出ることもある」と言う。

住民の生活が滲み出た石の階段

住民の生活が滲み出た石の階段

 

今回は、素晴らしい「風景を切り替える階段」、「境界をつくりだす階段」、そして「周囲を引き込む階段」を、実体験をもとに厳選してもらった。旅をしていると必ず出てくる「階段を上り下りすること」を、ただの移動でなく楽しい体験に変えれる見方とともに10スポット紹介する。

 

目次

  1. 雑賀崎灯台(和歌山県和歌山市)
  2. マルホンまきあーとテラス(宮城県石巻市)
  3. 日光東照宮(栃木県日光市)
  4. 事比羅神社(佐賀県鹿島市)
  5. キルッコヌンミ中央図書館 Fyyri(フィンランド・ヘルシンキ)
  6. ヘルシンキの名もなきT字路(フィンランド・ヘルシンキ)
  7. アラパチス博物館エントランス(イタリア・ローマ)
  8. イタリア国立21世紀美術館(イタリア・ローマ)
  9. グロッサの塔(イタリア・サンジミニャーノ)
  10. ベネチアの橋々(イタリア・ベネチア)

 

おすすめ階段 10選

1.雑賀崎灯台Googleマップでみる


和歌山県和歌山市、田子の浦に面する雑賀崎灯台。この灯台に登る階段は、岬の坂の地形の延長のようになっており、まるで地面から生えているように土地に馴染んでいる。

雑賀崎灯台の上からの景色

雑賀崎灯台の上からの景色

海と大地の境界に位置したこの灯台は、階段を登ることで大自然を見渡すことができる。さんすけさんは「風土に合った、風景を切り替える装置としての典型だ」と言う。

 

 

2.マルホンまきあーとテラスGoogleマップでみる


宮城県石巻市にある、建築家の藤本壮介氏が設計した複合文化施設、マルホンまきあーとテラス。お目当ての階段は、入ってすぐ右側、ホール入り口に向かう途中にある。

吹き抜けを介して、諸室からの視線でつながる大ホール階段は、まるで建物の間の大通りのようにも感じられ、境界をぼかす階段と言えよう。

座ることを促進させるクッションの設置

座ることを促進させるクッションの設置

人の移動する通路でありながら、広場のような役割ももっている。階段横にはクッションが常備されており、「階段に座る」という行為を促している。窓際は天井高も低く、座ると周りからの視線があまり気にならない居場所になる点が良いのだとか。

このように、階段が担う「高い位置に移動する」以外の役割が多く、魅力的な階段の一つだ。

まきあーとテラスの外観写真(夜景)

まきあーとテラスの外観写真(夜景)

 

 

3.日光東照宮Googleマップでみる


栃木県日光市にある日光東照宮は有名な観光地だが、さんすけさんの楽しみ方は一味違う。

日光東照宮の本殿。煌びやかで荘厳な有名スポットだ

日光東照宮の本殿。煌びやかで荘厳な有名スポットだ

煌びやかな本殿も美しくて素晴らしい場所だが、徳川家康霊廟へと続く奥社参道にある、一段ごとに一枚石が用いられた207段の石段も魅力に溢れている。

徳川家康霊廟に続く石段。曲がり角や階段で、物理的にも心理的にも境界を生み出している

徳川家康霊廟に続く石段。曲がり角や階段で、物理的にも心理的にも境界を生み出している

この奥社参道はとにかく長い。それを単純な移動ではなく、折り曲がった道とこの石段、そして荘厳な自然により「歩くことで、物理的にも心理的にも境界を生み出している」のだとさんすけさんは言う。

 

 

4.事比羅神社Googleマップでみる


佐賀県鹿島市にある事比羅神社(ことひらじんじゃ)に行くための高い石段は、写真を見ただけでも「あの先に何があるんだろう?」と気にさせる魅力が伝わる。

さんすけさんは「付近には酒蔵通りなどがあり、高い建物がないため、より神聖でシンボリックなものとして圧倒される」という。

川沿いののどかな風景の中に現れる、存在感のある階段と神社

川沿いののどかな風景の中に現れる、存在感のある階段と神社

日本の原風景のようなのどかな景色の中、遠目で見つけてつい近寄ってしまうような魅力があるのだとか。街と神社の境界となる階段であり、かつ「木々に囲まれた神聖な神社」と「のどかな街並み」という風景を切り替える階段だ。

事比羅神社の上からの、木々で切り取られた街の景色

事比羅神社の上からの、木々で切り取られた街の景色

神社からの眺めは、ただ「視界が開けた景色」にはない美しさのある「木々に切り取られた景色」だ。

 

5.キルッコヌンミ中央図書館 FyyriGoogleマップでみる

フィンランド、ヘルシンキ郊外の町キルッコヌンミにある、ヘルシンキの設計事務所、JKMMアーキテクツが設計した図書館「Fyyri」。大階段はこの図書館の中心に位置する。

まず、フィンランドの図書館は「静かにしなければいけない場所」という通念概念があまりない。この大階段では、クッションを敷き詰めて寝転んで読書をしたり、はたまた観客席のように使ってプレゼン会が行われることもある。

階段が高低差を生み出すことを利用し、開放感のある空間になっている

階段が高低差を生み出すことを利用し、開放感のある空間になっている

各閲覧室を区切るのではなく、それぞれの雰囲気を引き込む装置としての階段である。

「日常」と「非日常」の二つの顔を持つところが、他にない魅力なのだ。

キルッコヌンミ中央図書館 Fyyriの外観

キルッコヌンミ中央図書館 Fyyriの外観

 

 

6.ヘルシンキの名もなきT字路Googleマップでみる


フィンランド、ヘルシンキの建物に囲まれた場所、T字路の通路にある無名の名階段。これは今まで遭遇した引き込む装置としての階段の中で、最高のものだ」と、さんすけさんは言う。

さんすけさんは、「すぐ横にゴミ箱がたくさんあることや、休憩できる場所が近くにあること、そして見通しがよく、シンボリックな階段は、待ち合わせなどで使われるのでは?」と想像する。

T字路の階段からアーチを介して道の向こうを見渡せる

T字路の階段からアーチを介して道の向こうを見渡せる

この想像が合っているかは置いておいて、このように階段ひとつから成り立ちや使われ方を想像することで、旅先の土地をより楽しむことができるのだ。

 

7.アラパチス博物館 エントランスGoogleマップでみる

アラパチス博物館は、リチャード マイヤーが設計した、光あふれる印象的な博物館だ。手の込んだ装飾を施したローマの祭壇などが展示されている。

エントランス前にある大階段は、2Fにあるエントランスに向かうためのものだけではない。この階段は角地にあり、広場のような役割も担っているのだ。

大階段の端では、道からの視線を塞ぎ「居場所」を創出している

大階段の端では、道からの視線を塞ぎ「居場所」を創出している

博物館のエントランスとしてだけではなく、そばを歩いている人々の行動をも引き込む階段だ。

荘厳な美術館の外観。大階段のアプローチを介して街に溶け込む。

荘厳な美術館の外観。大階段のアプローチを介して街に溶け込む。

 

 

8.イタリア国立21世紀美術館 MAXXIGoogleマップでみる


イタリア、ローマにある国立21世紀美術館 MAXXIは、プリツカー賞を受賞した建築家ザハ・ハディドの設計により2000年に開館したイタリア初の国立現代美術館だ。

プリツカー賞:建築界のノーベル賞とも呼ばれる、建築界でもっとも権威ある賞のひとつ。建築を通じて人類や環境に一貫した意義深い貢献をしてきた建築家に贈られる。

2万7000㎡もある広大な敷地に「MAXXI芸術館」と「MAXXI建築館」の二つのギャラリーで美術と現代建築作品を展示している。館内を巡る曲線の階段が特徴的。

MAXXIの模型。黒い部分が館内を巡る階段

MAXXIの模型。黒い部分が館内を巡る階段

エントランスでチケットを購入した後に、階段を上り始める仕組みだ。

今どこを歩いているのかわからなくなる中で、見える風景がどんどん移り変わる、まさに「風景を切り替える階段」だ。

吹き抜けを介して、複雑に絡み合う階段をみる。

吹き抜けを介して、複雑に絡み合う階段をみる。

通路に付随する展示室が、階段と呼応するように外観を形づくる

通路に付随する展示室が、階段と呼応するように外観を形づくる

曲がりくねった階段は建築の形にも影響をあたえており、曲線を用いた特徴的な外観を演出している。

イタリア国立21世紀美術館 MAXXIの外観

イタリア国立21世紀美術館 MAXXIの外観

 

 

9.グロッサの塔Googleマップでみる


イタリア、サンジミニャーノにある「グロッサの塔」の階段。

中世に栄えたサンジミニャーノは、当時、貴族や地元富豪たちが競い「権力や富の象徴」として、より高い塔を建てた。その街並みは、「中世のマンハッタン」と呼ばれることもある。

最盛期には塔が72本あったが、現在は14本が残存している。最も高い54メートルの「グロッサの塔」は登ることができるのだ。

人が多く通る真ん中部分はすり減っており、歴史を感じさせる。

人が多く通る真ん中部分はすり減っており、歴史を感じさせる。

長い歴史により人が歩いたところがすり減っているなどの痕跡が刻まれており、経年劣化すらも魅力となっている。

さんすけさんは「歴史を感じながら、上から差し込む光に導かれて登り、風景を切り替える装置としてはこの上ない」という。

「グロッサの塔」の上からの景色

「グロッサの塔」の上からの景色

塔の上からの景色はまさに感動的な絶景であり、ここでしかできない体験だ。

 

 

10.ベネチアの橋々Googleマップでみる


イタリア、ベネチアは、街中に運河がはりめぐらされており、水の都とも呼ばれる。

ベネチアを移動する時に欠かせないのが水上バス「バポレット」であり、運河を水上バスが通るため、川を渡る橋に階段がついていることが、他の橋と一味違う特徴といえる。

ベネチアにおいて、橋は歩き回る交通の要になっている

ベネチアにおいて、橋は歩き回る交通の要になっている

川をわたり、建物と建物をつなぐ橋もある。

川をわたり、建物と建物をつなぐ橋もある。

アッカデーミア橋

アッカデーミア橋

ベネチアには400もの橋があり、その一つひとつが違っており興味深い。川を渡す橋から、建物同士の間を繋ぐ橋もある。

運河と地上を繋ぐ階段の境界には苔が生えている。

運河と地上を繋ぐ階段の境界には苔が生えている。

水上バス「バポレット」の乗降のためにつくられた、運河と地面をつなぐ階段では、干潮時にのみ苔が現れる。「境界を生み出す階段」の役割がより顕著に現れており、さんすけさんのお気に入りの一つだ。

 

おわりに

知識が付くと、見える景色が変わる。

観光名所でも、見慣れた場所でも、見方が増えることで景色を楽しむことができる。今回紹介したスポットに行った際にはもちろん、それ以外の場所でも、高低差のあるところには階段がある。

さんすけさんは「階段は使ってナンボのもの。実際に自分の足で感じてみることで、移動手段だけではない、階段の果たしている役割に気づくこともあり、それをきっかけに街を知ることができて楽しい」と語る。

ぜひ、階段を歩いてみることを通して、自分が今いる場所を、ほんの少しでも楽しめるキッカケにしてもらえたらと思う。

 

マイマップ作成者

さんすけ

兵庫県出身。建築を専攻していた学生時代に階段の魅力にとり憑かれ、卒業後も建築設計の仕事に携わっている。休日にはカメラを片手に、愛車のロードバイクで各地の建築を巡りつつ、日本酒や醤油など、土着的な魅力を求めて旅をする。

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