その土地の人々に受け継がれてきた郷土料理やご当地グルメの発祥店や名店を紹介する「忘れられないふるさとの味」。
誰にとってもどこか懐かしく、ふと思い出しては無性に食べたくなる「ふるさとの味」は、旅に情緒をかき立てるもの。
郷土料理やご当地グルメを味わいつつ、その土地の記憶や物語に想いを馳せてみては?
鳥取砂丘のある鳥取市。平日でも満席の店内から、焼けた肉とニンニクの香りが漏れて鼻をくすぐる。この匂いの正体は、地元の人に「ホルそば」の略称で呼ばれる「ホルモン焼きそば」。「まつやホルモン店」はホルそばの名店だ。
1965年創業。色褪せた手書き看板が、一瞬でノスタルジックな世界へ連れて行く。
店内もレトロ一色。手書きで直してある値段以外、あの頃のままだ。
椅子も店と一緒に歳をとった。それでも現役バリバリで次の客を待つ。ソース色にすすけた椅子にはきっと、油も人情も染み込んでいる。
昔、鳥取の焼肉屋でホルモンを食べた客が「焼きそばと混ぜて」と言ったことから生まれたのが「ホルそば」。安くて食べ応えがあり、庶民の味として瞬く間に定着した。
店内では、使い込まれて左右が反り返った鉄板の上でホルモンと焼きそばが、ジュウジュウといい声で合唱中。ホルそばを焼く女性が、そこに金属へらでカンカラカンカラとハーモニーを重ねる。まるで合唱団の指揮者のように、鉄板の上でヘラを右へ左へと動かしている。
付けだれを小皿に取り分けて待っていると、ホルそばがホクホクとした湯気と共に届いた。ホルモンがゴロンゴロン、いや、ポワンポワンしている。雲のようなその姿、湯気に乗って飛んでいく前に食べなくては。
味噌ベースの塩気と辛味の強いソース。ニンニクもパンチを効かせている。ソースをまとった濃厚なホルモンの脂が、口の中でジュワリと溶けた。よく見るとホルモンは数種類混ざっている。薄いのにコリコリしたホルモンがいいアクセントを加え、焼きそばのむっちりした歯応えと対になる。パワー系の味付けで、焼きそばなのにご飯が欲しい。その時、隣の席のアメフト系男性4人組が大盛ご飯を追加した。思うことは皆、同じらしい。
満面の笑みで送り出してくれた店員さんにお礼を言って店を出る。油でてかてか下唇をもう一度ペロリとして、眩しい太陽をチラリとする。さて、腹ごなしに鳥取砂丘へ向かおうか。
施設詳細
喫茶名 | まつや ホルモン店 |
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住所 | 鳥取県鳥取市吉方温泉4丁目432 |
アクセス | JR鳥取駅下車 徒歩17分 |
営業時間 | 11:30~13:30 / 17:00~21:00(日曜・祝日定休) ※火曜は17:00~21:00 ※月曜は不定休 |
駐車場 | あり |
備考 | 公式Facebook |
よだ なお
「郷土料理(ふるさとごはん)の暮らしすと。」として、いつものごはんやおやつに日本各地の郷土料理を作って暮らしています。旅という名の、郷土料理&ご当地グルメ調査に出かけるのがライフワーク。調査と試作を経た郷土料理のレシピを、エッセイとともにInstagramで発信中です。本を出すのが夢。
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