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【建築MAP】日本近代建築の父、アントニン・レーモンドの建築一覧

アントニン・レーモンド

アントニン・レーモンド(Antonin Raymond)は、チェコ出身の建築家。1919年、旧帝国ホテルの建設に際してフランク・ロイド・ライトと共に来日し、日本のモダニズム建築の先駆者として多くの作品を手掛けた。木材や自然素材を活かしたデザインが特徴であり、日本の建築に大きな影響を与えた。

A・レーモンドの住宅物語 (建築ライブラリー 7)

アントニン・レーモンドの記事一覧


アントニン・レーモンドの建築

札幌聖ミカエル教会

北海道に唯一現存するアントニン・レーモンド建築として知られる、札幌聖ミカエル教会

1960年に竣工し、翌年に和紙貼りのステンドグラスと家具を含めたすべてが完成しました。独特なファサードでありながら、静かな住宅地に溶け込むように佇んでいます。

教会ファサード

特徴的なファサード photo by いぶ

聖堂

聖堂から祭壇を望む photo by いぶ

聖堂

聖堂全体 photo by いぶ

レーモンドといえば、フランク・ロイド・ライトと共に帝国ホテル建築のために来日後、日本に留まり、多くの名建築を残した建築家です。

そんな彼がこの教会を設計、しかも無償で引き受けた背景には、当時教会の司祭に赴任したばかりだったベバリー・D・タッカー師の熱い想いがありました。

神の教会とは、神に捧げる最高のものを作り上げるべきです。

日本建築の最高のものがそうであるように、簡素だが美しく、費用のかからないが、しかし強固で永続的なものです。− ベバリー・D・タッカー

タッカー氏

1954〜1969年まで司祭を務めたベバリー・D・タッカー師 photo by いぶ

理想の教会を追い求めていたタッカー師は、東京にあるレーモンド設計の聖オルバン教会に魅了されます。その後、レーモンドの事務所にデザイナーである妻・ノエミ夫人と出向き直談判。当日、レーモンドは相槌もせず『考えてみる』とだけ言い放ったそうですが、その5ヶ月後、彼らの元に図面が届けられたのでした。

日本の伝統や文化を愛し、モダニズムと日本建築を融合した設計で知られるレーモンド。このエピソードから、タッカー師の想いに深く共鳴し、無償で依頼を引き受けたことが伺えます。

テクスチャ

玉砂利洗い出しもモダンなデザインとして巧みに落とし込まれている photo by いぶ

設計の実務を担ったのは、レーモンドの弟子である梶本尚揮氏。梶本氏は多忙な師匠の時間や気持ちに余裕のあるタイミングを見計らい、何度もスタディを繰り返しながら具体的な図面に落とし込んでいきました。

また、ファサードの特徴とも言える和紙貼りのステンドグラスやチャペルチェアなどの家具は、ノエミ夫人によるデザイン。現地での施工・設計監理は、建設地と縁の深かった竹中工務店のメンバーが担当しました。

ステンドグラス

デザインとしてはもちろん、和紙が光をやわらかく分散させる効果も photo by いぶ

和紙貼り

和紙貼りは細部まで丁寧に仕上げられている photo by いぶ

チェア

ノエミ夫人がデザインしたチャペルチェア photo by いぶ

教会関係者含め、建築に携わるすべての人が熱い情熱を傾けて作った、という事実を知ると、あたたかく包み込まれるような聖堂の雰囲気の理由がわかるような気がしました。

2段階の勾配でデザインされた特徴的な屋根は、レーモンド建築の特徴である「鋏状トラス」と、それを補強するレンガ造のバットレスで支えられています。

トラスの素材には北海道産のトドマツ丸太が使用され、構造体でありながら空間にやわらかなリズムを与えています。

トラス

連続する「鋏状トラス」 photo by いぶ

トラス拡大

トドマツの力強さが、北海道ならではの空気感を醸し出している photo by いぶ

小さな礼拝堂のすみずみにまで宿る、祈りと情熱、そして丁寧な手仕事の気配。札幌聖ミカエル教会は、建築というかたちを借りて、人々の想いが静かに息づく場となっています。

施設詳細情報

建築名 札幌聖ミカエル教会
設計者 アントニン・レーモンド
竣工年 1960年
住所 北海道札幌市東区北19条東3丁目4-5
利用時間 8:00〜17:00頃まで (日曜の13時頃まで及び月曜午前中は見学不可)
備考 第13回札幌市都市景観賞
▶︎HP

 

旧イタリア大使館別荘

栃木県日光市、中禅寺湖畔に位置するアントニン・レーモンド設計の旧イタリア大使館別荘

アプローチ photo by Saito Kimura

緑に囲まれた森の小径を歩いて行くと杉皮張りの外壁が特徴的な建物が見えてくる。

リビングダイニング photo by Saito Kimura

室内にいたっても、趣向を凝らした杉皮張りが用いられており、レーモンドの素材へのこだわりが感じられる。
当時ではまだ珍しいリビングとダイニングがひとつづきの一体的な間取りである。


広縁 photo by Saito Kimura
一見すると洋風のようだが、欄間や縁側など和洋折衷の造りになっている。
中禅寺湖に面した全面開口部を持つ広縁は、いつまでもそこに座って景色を眺めたくなるような空間だ。

広縁から望む中禅寺湖 photo by Saito Kimura

室内からの眺めはどこを切り取っても絵になるように窓や開口部が配置され、周りの自然や風景を巧みに設計に取り込んでいる。

外観 photo by Saito Kimura

市松模様の外壁がなんとも美しいリズムを生み出している。
レーモンドの木造モダニズムに対するひとつの表現がここに現れている。

文・写真:Saito Kimura

 

施設詳細

建築名 旧イタリア大使館夏季別荘
設計者 アントニン・レーモンド
住所 栃木県日光市中宮祠2482-2482
竣工年 1928年
利用時間 4月 9:00-16:00
5月-11月10日 9:00-17:00
11月11日-11月30日 9:00-16:00
見学料 300円 (中学生以下150円)
駐車場 近隣有料駐車場を利用

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旧井上房一郎邸

群馬県高崎市の文化振興に貢献した井上房一郎の自邸。

天井高のあるリビング photo by Saito Kimura

井上邸はかつて麻布に存在したレーモンドの自邸の一部をコピーした作りとなっている。
それだけに「レーモンド・スタイル」を今現在に伝える貴重な住宅作品だ。

光の降り注ぐパティオ photo by Saito Kimura

いちばんの特徴はこのパティオ(建物に囲まれた屋外空間のこと)
オリジナルのレーモンド自邸ではレーモンド夫妻がここでくつろぐ写真が残っている。
井上邸においても柔らかな光の落ちる心地のいい空間だ。

井上邸オリジナルの和室 photo by Saito Kimura

レーモンド作品のひとつの特徴とも言える「鋏状トラス(シザーストラス)」の小屋組みや、窓や扉などを自由に開放するために柱芯を外した「芯外し」の手法はそのままに、日本人である井上夫妻のために下足を脱いだスタイルになっていたり、井上夫人のための和室が作られていたりと見どころの多い作品である。

正面よりパティオ photo by Saito Kimura

部屋から見える和風の庭は、この季節新緑に囲まれて、たいへん美しいことだろう。
ぜひこのGWに見学に行ってはいかがだろうか。

文・写真:Saito Kimura

 

施設詳細

建築名 旧井上房一郎邸
設計者 アントニン・レーモンド
住所 群馬県高崎市八島町82-1
竣工年 1952年
利用時間 10:00-11:00 / 14:00-16:00
見学料 高崎市美術館観覧料に含まれる(展覧会により異なる)
駐車場 近隣契約駐車場を利用(1時間まで無料)

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