日本の歴史と文化が息づく場所、奈良県。
奈良公園の鹿や、東大寺、興福寺などの寺院が特に有名だが、それらは大阪に近い北西部ばかり。南部には吉野の桜や大台ヶ原などの美しい自然景観も広がっている。
そんな、都市部と山間部両方に魅力のある奈良県の楽しみ方を、奈良県で生まれ育ち奈良をこよなく愛するがくさんに「車旅のしおり」として教えてもらった。
歴史を感じれる建築と、奈良県民イチオシ超ローカルグルメの二つの軸で紹介するので、ぜひ奈良観光のお供に。
歴史を感じれる建築
奈良県民イチオシ超ローカルグルメ
1.今井町重要伝統的建造物群保存地区(Googleマップでみる)
橿原市今井町、奈良盆地の南西部に位置し中世末期に寺内町として成立した町。江戸中期までに南大和地方における商業の中心地として発展し、1993年12月に全国で37番目の国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
伝統的建造物群保存地区:住民生活を守りながら、建造物単体ではなく、歴史的な町並みを構成する要素を面的に保存するため、市町村が定めた地区のこと。
文化財保護法では、「周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの」と規定されている。
伝統的建造物群保存地区(通称:伝建地区)内には9つもの重要文化財があり、これは令和3年8月2日現在、126地区ある伝建地区の中で今井町だけ。平成5年に全国で37番目の選定であったが、街並み保存としての動きは古く、昭和50年代頃から既にあった。
当時の住民の中には生活環境の近代化等を求める者も多く、反対意見が強かったが、長きにわたる交渉を経て、次第に保存運動が浸透し、ようやく合意形成が結ばれたのだ。
伝建地区は各地区の特性に応じた整備をし、今井町において合意形成には大まかに以下3つの条件があった
①むやみやたらに観光地化しない
②閑静な住宅地とすること
③インフラの整備
単に建物を保存するだけでなく、そこに住む人が豊かに暮らせることで後世に残していけるような仕組み、秋祭りといった地域における伝統的な行事など、建物だけでなく住人による生活・文化までもが後世へと上手く継承され保存されているところが、がくさんのお気に入りポイントのひとつだ。
今井町の伝建地区には4つ通りがあり、通りによって建てられた年代が異なる。
地区内に残る伝統的建造物は江戸時代から昭和初期のものまであり、江戸時代のものは厨子二階(つしにかい)として階高が低く抑えられているが、大正期のものは二階を居住スペースとして活用していたこともあり、その時代での用途の違いにによって建物の高さも異なる。
厨子二階:天井の低い二階をもつ、江戸時代から明治後期まで京町家に多く建てられた様式。当時本格的な二階建ては町人が武士を見下ろすとされ禁じられていたことから普及した。
また、虫籠窓(むしこまど)があることも特徴的で、建物によってデザインが異なる。
虫籠窓:日本の町屋における窓の形式。虫かごのように目の細かい格子を付けた窓のこと。通風や採光が主な目的。
他にも、街並みが全て平入りの建物であったり、当時の家紋や飾り瓦が残っているなど、ディテールに目を向けると深く歴史を感じることができる。
建築や街並みのハードだけでなく、人の暮らしも保存し伝承している今井町の伝建地区は、ゆっくりと歩いて楽しむのにぴったりのスポットだ。
2.奈良ホテル(Googleマップでみる)
奈良市にある奈良ホテルは1909年開業の歴史あるホテルであり、建築家の辰野金吾により設計された。瓦屋根、漆喰の壁、西洋文化を取り入れた華やいだ意匠が混在している建築である。
木造の日本建築の中にも西洋の趣漂う迫力の和洋折衷様式であり、荘厳な「桃山御殿風檜づくり」。
初代天皇である神武天皇が祀られている橿原神宮に皇室の方が訪れる際にもよく宿泊されるなど、歴史があり、格式も高いホテルだ。
家具やピアノなど、さりげなく置いてあるものも歴史がある。実際にアインシュタインやオードリー・ヘプバーンなども利用した。明治以降ほとんど変わらない佇まいが残っている「博物館のようなホテル」だ。
がくさんは「そのような場所にいるだけで、自分も歴史上の人物と同じ空間体験をしているんだと思えて楽しい」という。
宿泊するに越したことはないが、見学だけすることも可能なようで、がくさんは何度も警備員のおっちゃんに「見学したい」と懇願したら通してくれたのだとか。見学するだけであっても、ぜひ観ておきたいスポットだ。
3.旧奈良監獄(Googleマップでみる)
奈良市にある旧奈良監獄は、住宅街に突如として現れる格式高い西洋風な建物。司法技師であった山下啓次郎氏が、旧奈良監獄を含む明治五大監獄を設計した中で現存する唯一の場所だ。
看守が独房を一望できるような刑務所ならではの空間構成や、どこにいても「見られている感」があったり、他の用途の施設にはない特徴が満載で、ここでしかできない体験であり面白いと、がくさんは言う。
そんな監獄空間だが、スラッと伸びる無機質な廊下には美しさも感じることができる。
出所後に円滑に社会復帰できるための溶接場や、地域住民も利用できた理容室があるなど監獄ならではのポイントがあり、過去の受刑者の日常を想像することができる。
ファサードは装飾がされていて、近隣住民目線ではレンガ造りの美しい建物。内からの受刑者目線では機能的で無機質な監獄という二面性があるのも、住宅街における監獄のあり方として面白い点だと、がくさんは言う。
2026年には星野リゾートの全国初の監獄ホテル「星のや奈良監獄」として生まれ変わる予定であり、どのように残され、どのように変わり、歴史が紡がれていくのか楽しみだ。
4.高取城跡(Googleマップでみる)
奈良県の中部、高取町にある高取城跡は、険阻な山を利用して標高584mの高取山頂一帯に築城された山城であり、日本三大山城に数えられる。
ふもとにある城下町の観光駐車場から歩いて往復約3時間ほどの、ほど良いハイキングコースでもある。
道中は門跡や石垣のある林間が続き、山の地形がうまく活用され、攻め入れられないために迷路のようになった城跡を自分の足で体験することができる。
登りきった山頂からは街を一望でき、達成感もある。中ほどまでは車でも行くことができ、しかも無料。
がくさんのおすすめは、昼食を持ってきて、気軽に運動を兼ねて登ってみる観光。「単調な道ではなく、城跡や林道、街を一望できる景色などシーンの切り替えが多く楽しい」と言う。
5.奈良カエデの郷ひらら(Googleマップでみる)
宇陀市、奈良カエデの郷ひららは、旧宇太小学校跡地に世界のカエデ1,200種3,000本を集め、カフェや図書館、物販なども行なっている複合施設。秋にはかえでの美しい景色が広がる、歴史と自然を感じれる場所だ。
当時学校として利用されていた時間が保存されており、どこか懐かしさも感じれる。
当時の小学生が作ったであろう模型があったり、大阪万博の時に作られただろうアート作品や、小学生が落書きしただろう壁が残ってあったりと、細かなポイントでノスタルジックを感じることができるのが、がくさんのお気に入り。
がくさんは「歴史ある校舎を保存するだけでなく、現代に合わせて活用されている場所であり、どのようなものを残し、どのようなものを変えるか、そのサジ加減が上手でつい何度も行ってしまう」という。
教室で食べる給食のような食堂や、地域の木材を用いたプロダクトの物販もあり、見たり歩くだけでなく、ご飯を食べたりお土産を入手することもできる。
1.ころっけのハヤシ(Googleマップでみる)
大和郡山市にある“ころっけのハヤシ”は、いわゆる「あの頃食べた青春の味」のするコロッケ屋さん。がくさんが部活帰りに食べていた思い出の味でもある。
子供や主婦、ご老人など地域のみんなから愛され、土地に根付いた家族経営のコロッケ屋さんは、行ったことがない人でもどこか懐かしいな気持ちになってしまうだろう。
ボリュームがあり、冷めても美味しい下町のコロッケは買い食い必須だ。
2.森のレストラン ラッキーガーデン(Googleマップでみる)
生駒市の、大阪との県境にある山にある、スリランカ料理を扱う森のレストラン ラッキーガーデン。
フードコートの屋外版のような場所であり、席に案内されるのではなく気に入った場所に座る。さらにご飯を食べ終わってもゆったりできるのが、がくさんのお気に入りポイント。
手書きのメニューや手作りの看板など、細かいところに温かみがある。
冬にはお客さん自ら薪を焚べて暖を取ることができたり、イベントも頻繁に開催される。
キャンプのように楽しむこともでき、友人や恋人と行くのにももってこいのスポットだ。
3.グットウルフ麦酒(Googleマップでみる)
奈良県東部、三重県との県境に位置する東吉野村にあるブリュワリー(ビール醸造所)、グットウルフ麦酒。
東吉野村は美しい清流と深い山々に囲まれた自然あふれる村であり、ニホンオオカミが最後に捕獲された場所でもある。そんな自然豊かな山の中で古民家を改修し、夫婦で経営している醸造所では、澄みきった清流を用いたクラフトビールを楽しむことができる。
アクセスが悪い立地だが、だからこそ自然の生んだクラフトビールが作られる。
がくさんは「ドライブ必須なため飲めないことが多いのが玉に瑕だが、ドライバーをしてくれる人がいたらその場で飲むこともできるし、作られた自然を堪能した後に持ち帰り、思い出しながら飲むのも楽しい」と言う。
行くたびにメニューが変わることもあるようで、何度も行く楽しさもあるのだ。
歴史を楽しむことは昔のものを見るだけでなく、どのような文脈で受け継がれてきたかの背景を知ることでより深く楽しむことができる。
そのまま残される魅力もあれば、現代に合わせてコンバージョンして活用されることもあり、カタチを変えてこれからどのように継承されていくかを想像し、楽しむこともできる。
がくさんは「奈良は魅力的な場所で、実際に来て自分で感じてみないとわからないことがたくさんある。ずっと住んでいる自分ですら、行くたびに違った発見も多い」と語る。
本記事で各スポットの歴史的文脈を知り、現地に行ってさらに深く感じる、奈良の車旅をしてみてはいかがだろう。
(写真:がく 文:たいき〜)
その他の地元民おすすめの穴場や、知る人ぞ知るスポットはこちら↓
がく
奈良県生まれ奈良県育ちで、奈良県とクラフトビールをこよなく愛する。