名スポットは迂回した先に。

【忘れられないふるさとの味#16】ヨーロッパ軒総本店のソースカツ丼(福井県福井市 / JR福井駅)

郷土料理やご当地グルメには、土地に根ざした物語と“ふるさとの味”が詰まっています。

忘れられないふるさとの味」シリーズでは、各地の発祥店や地元の名店を訪ね、懐かしさと旅情に包まれる料理を紹介します。

ヨーロッパ軒のソースカツ丼

恐竜の化石が多く発見されている福井県。北陸新幹線の開業とともに首都圏からのアクセスも良好となり、以前よりずっと身近な存在になりつつある。県庁所在地である福井市は、越前松平家の城下町として発展した歴史もあり、海鮮グルメも充実。自然も多い。魅力あふれる場所でありながら落ち着いた街並みで、混雑に疲れた人には穴場的な旅先かもしれない。

ソースカツ丼

100年以上の人気メニュー「ソースカツ丼」 Photo by よだ なお

「カツ丼」と聞いて「分厚い豚カツを卵でとじて、甘辛いつゆがジュワッと染みだす丼もの」とイメージする人は多いが、福井で「カツ丼」というと「ソースカツ丼」を指すのが一般的だ。薄い豚肉に細かいパン粉を絡ませ、ウスターソースをたっぷりかけてあるのが特徴で、脂っこさとは無縁の軽やかな口当たりは一度食べると病みつきになること間違いなし。

ヨーロッパ軒 総本店

洋風の名前に和の暖簾が揺れる Photo by よだ なお

午後四時すぎ。お腹はまったく空いていないが、福井を通るならこの店を無視することはできない。目指すはもちろん「ヨーロッパ軒総本店」。和洋混じった外観がハイカラで、その名前も創業当時はきっと最先端だったのだろう。

店の壁の写真がノスタルジーな世界へ誘う Photo by よだ なお

中途半端な時間にもかかわらず、店内は8割埋まっている。家族連れ、学生、老夫婦ーー客層が広く、地元のソウルフードとして根付いていることがわかる。お腹の具合と相談して、注文はやや少なめのレディースセットにしておいた。創業当時のモノクロ写真を眺めながら待っているが、この時代から変わらぬ味を食べられると思うと、タイムスリップしたような気分になる。

通常よりカツが少ないレディースセットでもボリュームたっぷり Photo by よだ なお

ヨーロッパ軒初代・高畠増太郎氏は明治45年、ドイツ修行から帰国。そこで学んだウスターソースを日本人向けに改良し、大正2年に「ソースカツ丼」として発表した。それはタイタニック沈没の翌年で、徳川慶喜が亡くなった年。以来100年以上、初代のレシピは受け継がれている。日本の歴史とともに歩んできたと思うと、その凄まじさに震えてくる。

薄いカツはサクッと軽快な音を立てて… Photo by よだ なお

カツは薄く、パン粉は極細。噛むたびサクサクと軽やかで、ウスターソースがじんわりと口に広がる。甘さのあとにふわりと酸味、そして最後はほのかにスパイシーな唯一無二の絶品ソース。「もっとソースを!」と思った瞬間、追いソースの小皿がすでに待機していることに気づく。ううむ、完全に心を読まれている。

ヨーロッパ軒に対するわたしの「ウスター交渉」はヨーロッパ軒側の圧勝。箸を握るわたしは完敗を認めざるを得ない。初めの満腹感はどこへやらで、「やっぱり普通サイズでもよかったかも…」なんて、お腹をなでるわたしです。

施設詳細

店名 ヨーロッパ軒 総本店
住所 福井県福井市順化1丁目7-4
アクセス JR福井駅より徒歩15分
福井鉄道福井城址大名町より徒歩15分
営業時間 11:00~19:50(ラストオーダー)
月・火曜定休(月曜が祝日の場合は営業)
駐車場 提携コインパーキングあり
備考 公式HP
福井県内に支店多数あり

案内人

よだ なお

郷土料理(ふるさとごはん)コーディネーター」として、いつものごはんやおやつに日本各地の郷土料理を作って暮らしています。旅という名の、郷土料理&ご当地グルメ調査に出かけるのがライフワーク。調査と試作を経た郷土料理のレシピを、エッセイとともにInstagramで発信中です。本を出すのが夢。

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