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【名建築の旅#14】札幌聖ミカエル教会(北海道札幌市 / アントニン・レーモンド)

訪れておくべき名建築を紹介する企画「#名建築の旅」。

建築家の情報や見るべきポイント、楽しみ方も紹介していく。

 

札幌聖ミカエル教会

北海道に唯一現存するアントニン・レーモンド建築として知られる、札幌聖ミカエル教会

1960年に竣工し、翌年に和紙貼りのステンドグラスと家具を含めたすべてが完成しました。独特なファサードでありながら、静かな住宅地に溶け込むように佇んでいます。

教会ファサード

特徴的なファサード photo by いぶ

聖堂

聖堂から祭壇を望む photo by いぶ

聖堂

聖堂全体 photo by いぶ

レーモンドといえば、フランク・ロイド・ライトと共に帝国ホテル建築のために来日後、日本に留まり、多くの名建築を残した建築家です。

そんな彼がこの教会を設計、しかも無償で引き受けた背景には、当時教会の司祭に赴任したばかりだったベバリー・D・タッカー師の熱い想いがありました。

神の教会とは、神に捧げる最高のものを作り上げるべきです。

日本建築の最高のものがそうであるように、簡素だが美しく、費用のかからないが、しかし強固で永続的なものです。− ベバリー・D・タッカー

タッカー氏

1954〜1969年まで司祭を務めたベバリー・D・タッカー師 photo by いぶ

理想の教会を追い求めていたタッカー師は、東京にあるレーモンド設計の聖オルバン教会に魅了されます。その後、レーモンドの事務所にデザイナーである妻・ノエミ夫人と出向き直談判。当日、レーモンドは相槌もせず『考えてみる』とだけ言い放ったそうですが、その5ヶ月後、彼らの元に図面が届けられたのでした。

日本の伝統や文化を愛し、モダニズムと日本建築を融合した設計で知られるレーモンド。このエピソードから、タッカー師の想いに深く共鳴し、無償で依頼を引き受けたことが伺えます。

テクスチャ

玉砂利洗い出しもモダンなデザインとして巧みに落とし込まれている photo by いぶ

設計の実務を担ったのは、レーモンドの弟子である梶本尚揮氏。梶本氏は多忙な師匠の時間や気持ちに余裕のあるタイミングを見計らい、何度もスタディを繰り返しながら具体的な図面に落とし込んでいきました。

また、ファサードの特徴とも言える和紙貼りのステンドグラスやチャペルチェアなどの家具は、ノエミ夫人によるデザイン。現地での施工・設計監理は、建設地と縁の深かった竹中工務店のメンバーが担当しました。

ステンドグラス

デザインとしてはもちろん、和紙が光をやわらかく分散させる効果も photo by いぶ

和紙貼り

和紙貼りは細部まで丁寧に仕上げられている photo by いぶ

チェア

ノエミ夫人がデザインしたチャペルチェア photo by いぶ

教会関係者含め、建築に携わるすべての人が熱い情熱を傾けて作った、という事実を知ると、あたたかく包み込まれるような聖堂の雰囲気の理由がわかるような気がしました。

2段階の勾配でデザインされた特徴的な屋根は、レーモンド建築の特徴である「鋏状トラス」と、それを補強するレンガ造のバットレスで支えられています。

トラスの素材には北海道産のトドマツ丸太が使用され、構造体でありながら空間にやわらかなリズムを与えています。

トラス

連続する「鋏状トラス」 photo by いぶ

トラス拡大

トドマツの力強さが、北海道ならではの空気感を醸し出している photo by いぶ

小さな礼拝堂のすみずみにまで宿る、祈りと情熱、そして丁寧な手仕事の気配。札幌聖ミカエル教会は、建築というかたちを借りて、人々の想いが静かに息づく場となっています。

建築情報

建築名 札幌聖ミカエル教会
設計者 アントニン・レーモンド
竣工年 1960年
住所 北海道札幌市東区北19条東3丁目4-5
利用時間 8:00〜17:00頃まで (日曜の13時頃まで及び月曜午前中は見学不可)
備考 第13回札幌市都市景観賞
▶︎HP

 

設計者

アントニン・レーモンド

アントニン・レーモンド(Antonin Raymond)は、チェコ出身の建築家。1919年、旧帝国ホテルの建設に際してフランク・ロイド・ライトと共に来日し、日本のモダニズム建築の先駆者として多くの作品を手掛けた。木材や自然素材を活かしたデザインが特徴であり、日本の建築に大きな影響を与えた。

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案内人

いぶ

福岡出身、都内在住。本屋と本が好きなふつうの会社員。小説やエッセイ、暮らしにまつわる本をよく読みます。

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