筑波研究学園都市は、戦後に国家プロジェクトとして計画・実現された唯一の独立都市です。まっさらな領土に計画された、日本では珍しいマスタープラン型の都市であり、大学や研究所を都市機能の軸とした我が国最大の研究開発拠点です。
マスタープラン型:将来的な都市の発展を予測し、土地や交通網などの区画を整理した上で、施設などを計画的に配置する都市計画の手法のこと。
本記事では、そんな近代都市の見どころを、建築や都市計画的な視点で少し専門的に楽しめる方法とともに紹介していきます。
・渡戸橋(Googleマップで見る)
筑波研究学園都市は、都市の中心部から一歩外に出ると田園風景が広がっている、いわゆる田園都市です。都市が誕生する前は田園が広がる広大な土地だったことが分かります。はじめに、都市と田園のちょうど境目を目視できるスポットの紹介です。
研究学園都市に来たら、まずはここで土地の歴史を感じてみましょう。
・学園東大通り(Googleマップで見る)
次に、都市の軸である、東西南北に広がる大通り(学園東大通り、学園西大通り、土浦学園線)を見ることで、都市構造を把握することができます。
中でも幅員50mにもなる学園東大通りと西大通りは、歩道橋から見渡すことで計画的に作られた都市の壮大さを感じることができる筆者おすすめのマニアックな観光スポットです。
ポイントは、道路から住宅地までの断面形状です。[車道→歩道→住宅地]の順に土地が高くなっています。これは、車の騒音が住宅地にまで届かないようにするためであり、加えて植樹帯を間に設けることで、緑豊かで閑静な住宅地を実現しようとしています。
わざとらしい人工的な自然感が妙にぎこちなく見えて愛着が湧きます。
・さくら大橋(Googleマップで見る)
筑波研究学園都市といえば欠かせないのが、歩車分離システム。歩道と車道が交わらないように立体的に交差させることで、両者の安全を確保しています。
車社会化が加速していた時代ならではの工夫を垣間見ることができ、時代の波が生んだ都市の形状にそそられますね。
立体交差に上がると、南北に10kmも続く歩行者専用道路があります。高木が植えられた並木道となっており、歩道から学校や公園、住宅などに直接アクセスできます。
都市の中に森があるみたいで、絶好のお散歩スポットになっています。
・洞峰公園(Googleマップで見る)
筑波研究学園都市は、計画的に配置された公園が数多く存在し、人々の憩いの場が整備されています。中でも、南の洞峰公園(面積:20ha)と、北の松見公園(面積:3.8ha)が都市を代表する二大公園となっており、どちらも南北に通る歩行者専用道路から直接アクセスできます。
都市にいると広い空が恋しくなることがありますが、家の近くにこんな場所があればそんな心配は無用ですね。
・松見公園(Googleマップで見る)
北の松見公園には、著名な建築家である菊竹清訓氏が設計した展望塔とレストハウス(1976年竣工)があります。
展望塔に上がると都市構造が一目瞭然。歩行者専用道路に沿って緑がうっそうと茂る、特別な景色が見れます。都市の中の森、確認完了。
晴れていれば筑波山が見える(というかほぼ毎日見える)のですが、この日はあいにくの雨。手を伸ばせば届きそうなほど近くにあるのに筑波山は拝めず、、、。
・吾妻2丁目(Googleマップで見る)
都市の中心部には、研究者やその家族が暮らす場所として無数の公営団地が建っています。しかし、世代交代を機に住人は年々減少しており、開発当初に建てられた公営団地のほとんどが今や廃墟と化しています。
壁にある数字のフォントが団地らしさ満載で思わずパシャリ。
・竹園3丁目(Googleマップで見る)
高層の集合住宅以外にも、低層の公営住宅群も廃墟化しています。
お化け屋敷のようにも見えるし、軽井沢のお洒落な別荘のようにも見えます。
・つくばセンタービル(Googleマップで見る)
つくばセンタービルは、建築家の磯崎新氏によって設計された、研究学園都市の中心に位置する世界的に有名なポストモダン建築です。
ポストモダン建築:合理性・機能性を重視するモダニズム建築に対する反動によって現れた建築のスタイル。様々な歴史的なスタイルやデザインを組み合わせることで、建築に感性や象徴性を取り戻そうとした時代の建築。装飾的な要素や色彩、模様などが多用され、個性的な外観を特徴とする。
国家主導の都市計画に批判的な姿勢を見せていた磯崎氏は、国家や都市の未来を暗示するように東西南北の軸が交差するポイントに没落する広場を設計し、都市の中心を空洞にしました。
磯崎氏は、建物の発表と同時につくばセンタービルが廃墟した時のイメージ模型を提示して大きな物議を醸しましたが、公営住宅群が廃墟化して都心部の空洞化が顕著になった今、ようやくこの都市の真の力を発揮できるのではないかと、筆者はその過渡期に立ち会えているかもしれないことに興奮しています。
都市内には、名建築の宝庫と言われるほど数多くの有名建築が点在します。名建築めぐりは、筑波研究学園都市を楽しむために欠かせない要素です。
記事の最後を締めくくる代表的な建築を3つ紹介します。
・新都市記念館(Googleマップで見る)
設計:大高建築設計事務所 竣工:1976年
中には池を見渡しながら休憩できるカフェがあります。都市にいることを忘れてしまうような贅沢な時間をここで堪能しましょう。
・つくばカピオ(Googleマップで見る)
設計:谷口吉生 竣工:1996年
上野にある「東京国立博物館・法隆寺宝物館」を彷彿とさせますが、実はつくばカピオの方が3年ほど先に竣工しています。エントランスの軒を支える細長い柱が特徴的。
・つくば国際会議場 (Googleマップで見る)
設計:坂倉建築研究所 竣工:1999年
ドラマに使われそうな象徴的な階段と、外壁を覆うガラスブロックが特徴的。中に入った時の開放感が気持ちよく、思わず見上げた先には楕円形の天窓から光が差し込んで来るのが分かります。
筑波研究学園都市は1日では回りきれないほどの名スポットが存在します。
歩きで1日、車で1日と、2日間に分けて歩車分離システムで都市を旅することをおすすめします。
鉄工職人として鉄を使った家具・照明・雑貨等を扱う鉄工ブランド 十てつ(トテツ)を運営している。土着的なものに興味があり、「風土」「建築」「工芸」などの地域に根差した分野のスポットを中心に発掘する。地元民おすすめMAPの作成に力を入れている。
twitter:@totetsu-iron
#名建築の旅 |
#見学できる名作住宅 |
#ノスタルジックな街並み |